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毎年関東のアメフト部から代表が集って勉強会が開かれる。
今回の会場は都内のホテルにある会議場。アメフトのルールや部活におけるパワハラの防止など一通り学んだ後は、育ち盛りの高校生の腹を満たす懇親会が待っている。
神龍寺からは雲水と一休、山伏が参加していた。
各校から中心選手が出てきているから、自然とポジションで交流が始まる。
雲水はキッド、ヒルマ、高見らQBと世間話にまぎれた腹の探りあいに参加していた。
主に鎌をかけ合っているのはヒルマと高見で、キッドと雲水はその様子を苦笑いしながら見ていた。
「やれやれ、こんな黒い頭脳戦には勝てる気がしないね」
コーラを傾けながらつぶやくキッドが、運動能力の面でも頭脳でも跳びぬけていることを知っている雲水としては容易に頷けない。
「ケケケ、じゃあ今度はテメーとオハナシしてやるよ」
不用意な謙遜でヒルマの標的が移った。
「あー助かった」
眼鏡のずれを直しながら高見が椅子に腰掛けなおす。
「お疲れ。見ものだったぞ」
雲水は近くにあったウーロン茶のペットボトルをとって、高見のコップについでやった。
「ああ、ありがとう。まったくお前もキッドも笑ってないで助けてくれてもいいだろうに」
「王城の戦略を裸にしてくれるなら、観客に没頭するほうが得策だ」
雲水は自分のコップにもウーロン茶を注ぐ。
「逆の立場なら、俺だってそうだけどね。ま、キッドとヒルマじゃあ、聞く価値はないな。どちらもボロなんかだすわけがない」
「まったくだ」
舌戦に持ち込もうとするヒルマを飄々と交わすキッド。鉄馬を探すフリをして席を立ったキッドを追いかけてヒルマも席を離れる。
行き詰まる攻防戦を見送った二人は顔を見合わせて笑った。
「おい」
突然背後から伸びてきた腕が雲水の肩をつかんだ。強い力で振り向かされる。
「阿含。お前、どうしてここに」
研修などに興味のない阿含は名前だけは参加リストに入っていたが、朝から姿を消して会場には来ていなかった。
制服姿の高校生の中、一人私服はいやでも目立つ。
「あ゛?来ちゃまずいのかよ」
サングラスの奥で目が細められる。
「そんなこと言ってないだろ」
「立ち話することないだろ。せっかく100年に一人の天才が来てくれたんだ。座れよ」
高見が自分の隣の椅子を引いて阿含をうながす。
「ああ゛気安く声かけんな、ザコ」
「阿含っ。す、すまん、高見」
顔の前で手を振って、高見は気にしていないと伝えてくれる。
雲水が重ねて謝罪しようとすると、阿含が腕を強く引いて立ち上がらせた。
「来い」
雲水の返事を待たず、歩き出す。引きずられるままに会場を出た。
エレベーターに乗って階を下へ移動する。1階までは降りずに別の会議場などがある階で降りさせられた。
「どこに行くんだ」
阿含の返事はない。
エレベーターホールを抜け、廊下の角を曲がる。
阿含が一瞬案内板に目を走らせた。
廊下を適当に曲がって連れてこられたのは、この階でおそらくもっとも奥まったところにあるトイレ。
個室で便座に向かって体を突き飛ばされる。蓋に手をついて振り返る間に、阿含は鍵をかけてしまった。
「なにをするんだっ」
「あ゛?ナニに決まってんだろ。さっさとケツ出せ」
阿含は自分の下肢を寛げながら、雲水に命じる。
「な、んで…こんなところで」
「ヤリたくなったんだよ。テメーにごちゃごちゃ言う権利があると思ってんのか」
言い放って、阿含は雲水のズボンに手をかけ引き下ろそうとする。
このままでは薄い布を引き裂かれかねない。
雲水は急いでベルトに手をかけ、自分で下着ごとずり下げた。
「そこに手ぇ付け」
閉じられた便座の蓋を顎で示される。黙って肘から先を組むようにして便座に乗せ、その上に頭を置く。
阿含に差し出した尻に、上から冷たいジェルが落とされる。冷たい感触に背中が一瞬こわばった。
ジェルを薄く纏った阿含の指先が無理やり奥に侵入してくる。
「グッ…ハッ…」
詰まる息を吐くように努力する。
力任せに蹂躙する阿含の行為は、苦痛だけを思い出させて体が竦む。
力を緩める努力をしなければさらに辛いと経験でわかっていても、実際の痛みが襲ってくるとそれも難しい。
ねじ込んだだけの2本の指を阿含が引き抜く。ベルトを緩める金属音が耳に響く。
力を抜くために息を吐くが、上手くこわばりが取れない。
雲水の状態など見下ろす阿含は容易くわかっているだろうに、固まったままの体に自分自身を宛がうと力ずくで侵入してきた。
「うっううっ」
道着の袖を噛み締めて痛みに耐える。力を抜くことなど考えられない。
ただ阿含が過ぎ去るのを待つだけだ。
2度ほど雲水の中で達して、阿含は自分を引き抜いた。
雲水はトイレの床に足をつき、便座を抱えるように崩れ落ちた。
ペーパーホルダーの回る音がして、阿含が自身を拭いた紙を雲水の横に投げ捨てる。
衣擦れとベルトの音だけが聞えた。
「じゃあな。あ゛ー俺、今日は帰らねぇから」
阿含が個室から出て行った。
トイレの扉が背に当たる。
そのままでは外から丸見えだ。
雲水はなんとか体を動かして、トイレの鍵を閉めなおした。
動いたことで中に出されたものが外へ流れ出そうとする。
なんとか蓋を開けて便座に座ることができた。
ウォッシュレットがあったことにホッと息をつく。
痺れるような痛みが、また皮膚に傷を負ったことを伝えてくる。
便座で腰掛けていることも厳しいが、足が震えてまだ立ち上がれない。
これから会場に戻っても平静な表情を作る自信がない。
山伏に後でメールを送ることにして、少し落ち着いたら寮へ帰ろう。
誰にも会うことなく、1階のエントランスにたどり着く。
多少足がふらつくし、傍から見れば顔色も悪いだろう。気分が悪くなったから帰ると言って疑われることがない程度に。
「雲水」
名前を呼ばれて前を見ると、ロビーの椅子から立ち上がる高見がいた。
「た、かみ」
「阿含が不機嫌そうだったし、お前が帰ってこないから心配になったんだ」
「そうか…すまん、大丈夫だ」
「…悪いが、そうは見えないな。まさか、殴られたんじゃないだろうな?」
眼鏡の奥で高見の目が細められる。
雲水は首を振った。暴力には違いないが、少なくとも殴られてはいない。
「ちょっと気分が悪くなっただけだ。俺は帰らせてもらう」
立っているだけで息が上がる。高見との話を切り上げるべく、横を通り過ぎようとした。
「待つんだ」
「放せっ」
突然腕をつかまれ、雲水の中で先ほどの阿含がフラッシュバックした。
押さえつけられる恐怖に勢いよく腕を振って相手を振り払う。
体の振動が脳を揺らし、雲水はそのまま床に倒れた。
「おいっ」
高見の焦った声が耳に残る。
額に冷たいタオルを乗せられた感触で目を開いた。
「気がついたかい?」
「高見…」
布団の感触と高見の腰の高さからベッドに寝かされているのがわかる。
視線を左右させるが見覚えのない部屋だ。病院や医務室の無機質ではない。
薄い色の壁紙に機能的な蛍光灯、モノトーンの家具。
「俺の部屋だよ。目の前で倒れられては放っておけないだろう」
「…迷惑を掛けた」
高見が小さく笑う。
「何か飲むか?」
雲水は首を振った。
シーツと着ている綿の感触が素肌をくすぐる。その感触に一瞬頭が白くなった。
服を、着替えさせてある。
「お、お前が脱がせたのか」
「ん?ああ」
高見は雲水に背を向けたまま返事をした。
つまり彼は痕跡に気がついたということだ。
シーツを握って、高見を見ないように横向きになる。
額のタオルがずれて落ちた。
「道着ではゆっくりできないだろう」
「…ありがとう」
誰が何をしたか、高見にわからないはずがない。
雲水は唇を噛んだ。
高見は少しの間雲水を見下ろしていたが、部屋を出て行った。
しばらくして扉の開閉する音がする。
「少し飲むといい」
上から高見の声が降ってくる。何か持ってきてくれたようだ。
雲水は動かず、返事もしなかった。
「雲水。薬もあるから、何か腹に入れるんだ」
シーツを握りなおして、雲水は下を向くように姿勢を変える。
フゥ、と高見のため息が聞えた。
サイドテーブルにトレイが置かれる音がする。
諦めてくれたかと力を抜いた瞬間、肩を掴まれて上を向かされた。
目の前に高見の顔があり、すぐに口をふさがれる。
舌で唇を割られ、口の中にポカリが流し込まれた。
雲水の喉が上下するのを待って、高見が離れる。
「なっにをっ」
飲み込めなかった雫を拭いながら抗議すると、ベッドに腰掛けたまま高見がサイドテーブルから薬と残りのポカリを差し出してきた。
「解熱剤を飲んだほうが良いぞ」
悪びれもしない態度に、文句を言う気力が萎えた。
大人しく起き上がってペットボトルと錠剤を受け取り、口の中に流し込む。
「どうも」
半分残ったペットボトルをつき返す。
受け取った高見は意地悪気に口の端を持ち上げた。
「セックス経験者なのに、キスくらいで動揺するんだな」
「キスは初めてだっ」
思わず正直に言い返して、高見に驚かれた。
バツが悪くなって視線を落とす。
「阿含と…恋人なんだろう?」
「あれは弟だ」
「してるんじゃないのか?」
なにを、かは言われなくてもわかる。
「アレはそういうものじゃない。あいつの気晴らしだ」
中学に上がった頃から阿含はやたらと雲水にイラついていた。
才能に差がありながら諦めきれない雲水が腹立たしかったのだろう。
その苛立ちをああいう形で雲水にぶつけているのだと思っているから、阿含を単純に責めることが雲水にはできなかった。
「ふーん、過激な兄弟シップだな。まあ、お前が童貞だと桜庭が安心するよ。なにかと張り合ってるみたいだから」
「俺の童貞がどう関係あるんだ」
「気になるだろ、そういうことって。男連中が集まるとそればっかりじゃないのか?」
言われてみると、その手の話題を雲水に振ってくる友人はいない。
一番張り合うべき阿含は競争相手にもならない。
首を傾げて考え込んでしまった雲水を高見が笑った。
「純粋培養で育てられているんだな」
馬鹿にされたようでムッときた。
「王城はカトリックの精神で結婚までの性交渉を禁じていると聞いていたが?」
「そんなものは建前さ。当たり前だろう?」
その通りなので返す言葉がない。女人禁制の神龍寺とて、外に恋人がいる人間もたくさんいる。阿含を筆頭に。
口調からも高見が経験者であることは間違いないだろう。
改めて高見の顔を見つめると、どのパーツも形よく整っている。目元を細めて微笑むと優しさがにじみ出るようだ。
顔良し、性格良し、良家の子息で、高身長高学歴とあっては女性の方から放っておかないのではないか。
「そんなに見つめられると照れるな」
「ああ、すまん」
誤りはしたが視線はそらさなかった。
高見の手が雲水に伸びてくる。顎を捕らえられ、顔を近づけられても避けなかった。
今度は柔らかく唇を合わせ、軽く吸い上げられる。それを繰り返されてゆっくりと綻んだ唇に舌が入り込んできた。
あくまで優しく口腔を侵食され、頭の芯がぼやけていく。軽く肩を押されただけでベッドに沈んだ。
口から離れた高見の顔が喉元に降り、緩やかに吸い上げられる。
雲水の体の線を静かになぞる手に、我知らず体が跳ねた。
高見が胸に隙間なく口付けを落としてから、突起を口に含んだ。
「やめっ…高見っっ」
背中を這い上がる快感に思わず拒絶の声が漏れる。
高見は一旦口を離し、伸び上がって雲水の顔を覗き込んできた。
「雲水の弱点を見つけたよ」
かけたままだった眼鏡を外し、サイドボードに静かに置く。
「な…に?」
「知りたいか?」
言いながら口付けられ、口移しに返事を返す。
「じゃあ、教えてあげるよ」