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アフタークリスマスも雲←メグ

「まったく、なんでこんなことを…」
目の前で働く男たちを見ながら、メグは大きくため息をついた。


クリスマスボウルが終わってすぐに、賊学のメンバーは泥門の悪魔に呼び出された。
ヒルマがクリスマスボウル優勝校を巡る賭を開催し、葉柱が性懲りもなく参加していたらしい。
もちろん思い切り負けて、またしても賊学のメンバーはヒルマの舎弟に成り下がった。
受験前に、と言いたいところだが、葉柱もメグも賊大にエスカレーター進学が決まっている。
それならば賊学は3年の終わりまで部活をさせてもらってもいいようなものだが、実際に進学するのは1割で、後の9割が就職活動だからそうもいかないのだった。
ヒルマに至っては受験の心配などするのも馬鹿馬鹿しい。
賭で集めた金の一部で「優勝校を讃える」とは名ばかりの盛大なクリスマスパーティーを計画する暇人なのだから。


「メグちゃん!」
パーティーが始まり、下働きが免除されているメグがジンジャーエールを飲んでいると、人波をかき分けて姉崎まもりがやってきた。
他の連中は私服で集まっているが、まもりは制服姿だ。
メグもいつものセーラー服なので、この集団の中ではかえってコスプレくさい。
「ひさしぶり」
「ちょっとは加減してやってほしいね」
飲み物や食べ物を持って走り回る後輩に視線をやると、まもりは申し訳なさそうに肩をすくめた。
まもりがヒルマと付き合っているのは、話の調子からなんとなく気がついている。
もう少し彼氏の暴挙を取り締まって欲しいと思うので、つい口にしてしまったが、無理だろうということもわかっていた。
「せっかくのパーティーだから、葉柱くんはこっちに来てもらったら?」
まもりは気を利かせて提案してくれたが、メグが葉柱とパーティーを楽しみたい理由はない。
周りがどれほど葉柱とメグを恋人だと思っていようとも、二人はあくまで幼なじみの悪友にすぎないのだから。


「きゃーどいて、どいてぇえええっ」


急に悲鳴のような声が近づいてきて、そちらを振り返ると、ホールケーキを両手に持った泥門の鈴音(ミニスカサンタ)がこちらに向かってローラースケートで突っ込んでくる。
「きゃあっ」
「ちょっ」
鈴音は二人にぶつかる前に急停止したが、持っていたケーキは手を離れ、メグたちのスカートに見事に命中していた。
「ご、ごめん、まも姉、メグ姉」
鈴音が慌ててケーキを持ち上げるが、二人のスカートは生クリームがべったりついてしまっている。
「鈴音ちゃんは大丈夫?」
「うん…ごめんなさい」
「混み合ってるんだ。気をつけな」
「メグ姉もごめんなさい。二人とも着替えないとダメだよね」
鈴音の言うとおり、この制服はもう着ていられない。
しかし着替えなど持ってきていなかった。
「あ、あのね。チアリーダー用のこの衣装なら予備があるんだけど…」
鈴音が恐る恐る自分の衣装の裾を引っ張って見せた。
メグはすぐさま首を振る。
「いらないよ。あたしはその辺の男連中の服でも脱がせるから」
「だ、ダメよ。メグちゃん。その人が風邪ひいちゃう」
とまもりには止められるが、ミニスカサンタを着る気にはなれない。
「帰ろうか。これだけ人がいたら気がつかないよ、誰も」
まもりの提案はもっともだ。
が、メグとしては少しだけこのパーティに未練がある。
返答を遅らせていると、
「で、でも、まだパーティーが始まったばっかりなのに、まも姉たち帰らせちゃったら、よー兄に怒られるよぉ」
鈴音が眉根を寄せて小首をかしげてきた。
捨てられた子犬のような仕草だ。
「め、メグちゃん、この際だからそれでも…」
年下の甘える仕草にまもりは弱いらしい。
「お願い、メグ姉」
両手を胸の前で組んだ鈴音がメグの顔をのぞき込む。
「し、仕方がないね…」
メグも同類だった。

 

更衣室に行ってみると、幸いにして残っていた衣装は超ミニスカートではなく膝に白いファーの裾がかかるほどはあった。
鈴音がノースリーブを着ていたから心配していたが、長袖のファー付きボレロがきちんと用意されている。
足下は黒の膝丈ブーツだったので、鈴音ほどの露出はない。
帽子まではかぶらなくていいだろうとまもりと相談し、着替えを終えた。
二人そろって更衣室からパーティー会場に戻ると、すぐに視線が集まってくる。
まもりだけならば周りの男共が我先にと寄ってきたかもしれないが、メグと一緒にいるので遠巻きだ。
ジロジロ見られているのも落ち着かないが、やたらと話しかけられるよりは楽に違いない。
後輩からグラスを受け取りながら、会場の中央に人だかりを作っている鬱金色の集団が目に入る。
今年のクリスマスボウルの覇者が到着していた。
男たちの壁に囲まれてだれもこちらを見ていないのに、やけに足下が涼しい明るい色の服が心許なくてボレロをかき合わせたくなる。
「メグちゃん、乾杯しよう」
「ああ」
まもりに促されてグラスを合わせた。
わざとパーティーの中心に背を向ける。
一口含んだコーラの炭酸が痛い。
急に口が渇いていた。


「ま、まもりさんっ」
メグの背後から呼びかける者がいる。
振り返ると、神龍寺の細川一休と金剛雲水が立っていた。
「かかかか、かわいいっすね、その格好」
「ありがとう、一休くん」
細川一休の目にはまもりしか入っていないらしい。
勇気を振り絞った、という風情だったが、まもりの返事の後は話が続かず、わざとらしくウェイターに声をかけながら去っていった。
「二人とも衣装を用意していたのか?」
何故か一休と一緒に行かなかった雲水が話しかけてくる。
「まさかぁ。ハプニングがあったせい」
「そうか」
雲水は素直に頷いたが、眉間に皺が寄っている。
何か言いたいことがあるらしい。
「なんだよ。言いたいことがあるならはっきりしな」
メグは自分の尖った物言いに内心がっかりした。
どうしてまもりのように柔らかい受け答えができないんだろう。
「いや…ここに来る前に、ヒルマから美人サンタがお出迎え、というメールが来ていたから、てっきり率先してその格好をしているものだと」
雲水の言葉にまもりと顔を見合わせる。
頭を巡らせて会場を見回すと、さきほどハプニングを仕掛けた鈴音が大きなウサギのヌイグルミを満足げに抱えて歩いていた。

計られた。

まもりも同じ考えに至ったようで、口元をゆがめながら額を押さえている。
しかし服を汚され、着替え終わった後では、なんだかもうどうでもよかった。

「着替えるか?仕組まれたんだろう?」
雲水もこちらの表情でおおよその事情をくみ取ったらしい。
「いや…もう、いいよ」
「うん。始末は後でつけさせるわ。ごめんね、メグちゃん」
さすが、ヒルマに怯まないまもりだけのことはある。
「あんたの始末を楽しみにしているよ」
これは本心だ。
ヒルマがやり込められる顛末を教えてもらえば、ミニスカサンタの代償くらいにはなる。
まもりはもう一度ごめんと手を合わせた。
「風邪は引かないようにな」
二人が納得したと受け取った雲水が立ち去ろうと足を踏み出した。
「あっ」
メグは思わず声を上げた。
雲水はその声に立ち止まる。
何か用かとこちらを黙って見ている雲水に、メグは内心苛立った。
一休のように頬を赤らめて賞賛してくれとは言わないが、少しくらい何か言ってくれてもいいだろうに。
この唐変木、と心の中で罵りながら、会場で会ったら言いたいと思っていたことを口に出した。
「優勝……よかったね」
違う。おめでとう、って言うつもりだったのに。
「ああ、ありがとう」
何を言われるか警戒していたのか、雲水は肩の力を抜いて笑いながら礼を言った。
「大学でもよろしく」
「受かってから言いなよ」
「そうだな」
メグの皮肉を軽く流して、雲水は去っていった。
背中を見送って、握ったまま温めてしまったコーラを流し込む。
「メグちゃん…」
隣に立っていたまもりが控えめに声をかけてきた。
「ごめん、わかっちゃった」
メグは小さく頷いた。







 

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